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  • 大井駿

モーツァルト: ヴァイオリンソナタ K304 ホ短調

僕と一緒に悲しんでくれ。夜明けの2時、僕の愛する母が亡くなったことをお知らせしなければならない。神は彼女をお召しになった。

1778年7月3日、滞在先のパリよりモーツァルトがザルツブルクの友人宛に送った手紙はこの文章から始まります。

オーストリアのザルツブルクで生まれ、ヨーロッパ各地を旅しつつ地元ザルツブルクの宮廷に仕えていましたが、ザルツブルク大司教の処遇に不満を持った若きモーツァルトは新しい勤め先を求めてミュンヘン、マンハイム、パリを訪ね就職活動を行います。しかしこの時に同行した母はパリで体調を崩したまま帰らぬ人となってしまいました。

ちなみにお母さんの遺体は現地のパリ、サン・ウスタシュ教会(Châtlet - Les Halles駅近く)の付属墓地に埋葬されましたが、その後のパリ市長ジョルジュ・オスマンの都市改造計画によって、遺骨は全てカタコンベへと運ばれてしまい、地下迷路の闇へと消えてしまいました。現在でもどこにお母さんの遺骨があるかはわかっていません…


この時の悲しみを綴った曲と言われているのがピアノソナタ K.310 イ短調と、このヴァイオリンソナタです。パリで思うように行かずがっかりするモーツァルトに対し、父レオポルトの必死の説得によって一人でザルツブルクへ戻ります。しかし故郷に愛想を尽かしているモーツァルトは、誰にも雇われないフリーの音楽家として新天地のウィーンへと旅立つのです。


同時期に書かれたピアノソナタ K.310 では突然の死への怒り、取り留めのない悲しみが突っ走るかのような激しい曲調によって綴られていますが、ヴァイオリンソナタ K.304 では少し理性的で、情緒的な優しい悲しみを持っています。


第1楽章 Allegro

ソナタ形式。

静かなユニゾンで始まるものの感情の起伏が激しく、意表を突くようなハーモニーが度々出現し、終始落ち着かない様子が描かれています。


第2楽章 Tempo di Minuetto

美しい悲しさを持つメヌエット。

母の死に対する悲しみを、舞踏の一種であるメヌエットで表現してしまうとはモーツァルトの凄さを感じずにはいられませんね…

急に懐かしい日々を思い出したかのようなトリオ(中間部)を挟み、再現される主題は一オクターブ低く演奏され、おぞましさすら感じさせます。最後は短調のまま曲を閉じます。


©️2016 Shun Oi

© 2018 by Shun Oi

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