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  • 大井駿

ブーレーズ: ソナチネ (1946)

Sonatine pour flûte et piano (1946)



  • ブーレーズの生い立ち

ブーレーズは1925年、フランス・モンブリゾン出身。

リヨン大学で高等数学を学んだのち、パリ国立高等音楽院へ入学。

ピアノ、楽曲分析、作曲、作曲書法(エクリチュール)、オンド・マルトノを学び、中退する。作曲家として活動する傍ら、フランス国立音響音楽研究所(IRCAM)を創設、コレージュ・ドゥ・フランスやバーゼル音楽院で教鞭をとるほか、クリーヴランド管弦楽団で音楽監督になるなど教育者や指揮者としても活躍した。

2016年1月にドイツ・バーデン=バーデンで死去。



  第二次世界大戦終戦の翌年1946年、ブーレーズは作曲家として自分の作品を初めて世に出しました。21歳、パリ国立高等音楽院の学生だった時です。その頃彼は、無調の世界の門戸を開いた最初の人物、アルノルド・シェーンベルクが編み出した十二音技法に傾倒し、初期の作品を十二音技法のアイデアを用いて作曲していました。

その中の1曲がフルートとピアノのためのソナチネです。この曲はブーレーズより3歳年上で同窓生のフルーティストであるジャン=ピエール・ランパルの委嘱によって書かれたことはあまり知られていませんが、ランパルは曲のあまりの難しさに嫌気がさしたため一生弾くことはありませんでした…

この曲は作曲技法も構成もシェーンベルクを土台にして書かれたのが大きな特徴です。作曲技法は厳格な十二音技法、構成はシェーンベルクが若い頃に作曲した室内交響曲第1番を真似て書かれました。



このことについてブーレーズは次のように語っています。


私は、単一楽章の曖昧さを示したシェーンベルクの室内交響曲に非常に衝撃を受けました。この曲は全4楽章で構成されているだけではなく、それぞれの楽章は4つの韻律から構成されており、そして単一ソナタ楽章でもあるのです。彼は形式の拡大、縮小に関する曖昧さをこうして作り出しました。私は彼をそのまま真似するつもりはありませんでしたが、その曖昧さを利用して新しいものを作り出したかったのです。このソナチネでは第一主題(ソナタ)、第二主題、第二主題を基にしたスケルツォ、緩徐楽章、そしてフィナーレの5つによって構成されています。私の中で非常に興味があったのは、一つのテーマを変形させ、全体に統一感を持たせることでした。

(出典: Pierre Boulez: “Conversations with Célestin Deliège” Eulenberg Books 1975)



のちにブーレーズは厳格な十二音技法、セリー音楽(トータルセリエリズム)は、音楽としてあまり意味をなさないとして、より柔軟なセリー音楽や偶然性による音楽に傾倒します。



  • 曲の構成

フルートとピアノのためのソナチネは作曲者本人も述べたように単一ソナタ楽章が5つに分かれた曲として作曲されました。この5つは第1楽章は第一主題の提示、第2楽章が第二主題の提示、第3楽章がスケルツォ、第4楽章がスケルツォのトリオ、第5楽章がフィナーレと分けることができます。

かつ単一ソナタ楽章としてみるならば、第1楽章、第2楽章が序奏と提示部、第3楽章と第4楽章が展開部、そして第5楽章が再現部とコーダの役割をしています。曲は全て続けて演奏されます。


第1楽章(M1-96): Très librement, Lent - Rapide

非常に遅く、自由な序奏で始まります。静かなピアノの和音に先導されてフルートがリズムの定まらないメロディーを奏でます。急に速くなったテンポで第一主題が演奏されます。粗暴なのが特徴です。この時のピアノで演奏される両手のアルペジオはこの曲の提示部、再現部の始まりのアンカーとなっています。ちなみにこのアルペジオはちょうど計12音のそれぞれ異なる音で構成され、この曲に十二音技法を用いている象徴とされていることがわかります。


第2楽章(M97-150): Très modéré, presque lent

ピアノの長いトリルで始まる第2楽章はゆったりしています。いわゆる緩徐楽章です。

ここでフルートによって奏でられる連打のモチーフが第二主題です。


第3楽章(M151-295): Tempo scherzando - Très modéré, presque lent - Tempo scherzando

スケルツァンド楽章として書かれているため、スピード感やいくぶんかの滑稽さを伴っています。第2楽章の終わりで変容された第二主題が反転、逆行、反転形の逆行などを用いて執拗に繰り返されます。

この楽章の中間では、自由な形で第2楽章のトリルのモチーフが懐古される場面がありますが、またすぐにスケルツァンドが始まります。この楽章間は終始フルートもピアノも無窮動のように休みなく演奏されます。


第4楽章(M296-341): Subitement tempo rapide

第3楽章(スケルツォ)のトリオの役割をしている楽章です。トリオというのはいわゆる中間部のことを指し、バロック時代に合奏などで中間部を演奏する際に3人だけで演奏していたことが名残のセクションです。ここでもフルート、ピアノの右手と左手が同じリズムを互いに模倣し合うなど、トリオのように3つの独立した働きをしています。そのため両者の演奏する不規則なリズムのフレーズが錯綜しており、奏者も聴衆者も構造が分かりづらくなっています。

急な強弱の変化が少なくフルートは横の動きがあるのに対しピアノは縦(和音)の動きでハーモニーを保持します。


第5楽章(M342-495): Tempo rapide - Subitement très rapide - Extrêmement rapide

コーダ(M496-M510): Très modéré, presque lent - Très rapide

第1楽章の序奏終わりに第二主題へつなげるモチーフとして登場した音型に導かれて乱暴なピアノのソロで始まります。この楽章は、これまでのハイライトがコラージュされたような楽章です。はじめのピアノのソロで再現されるのは、なんと第1楽章で出現した第一主題をそっくりそのまま反転させたものなのです。

連打のモチーフとともにスケルツォ楽章を変容させたものが再び顔を出します。ここでテーマとして用いられているのは、第一主題のフルートパートに出現する最初の10音のフレーズを縮小させたものです。

ピアノの和音による中断を何度か挟んで次第に速くなり、その速さは”Extrêmement rapide(極端に速く)”を迎えます。ピアノもフルートも超高音域に達したところで、再びピアノの和音によって終わりを迎えます。

次に続くコーダで第一主題の冒頭のアルペジオが回想されます。このアルペジオは4回登場しますが、最初は元々の形で登場、次の二回は右手と左手それぞれが逆行した形になり、4回目は両手とも逆行形となります。この曲の最後は第1楽章にて用いられた第一主題へ続くモチーフに導かれて第2楽章の連打のテーマがピアノの低音で演奏された後、第3楽章で登場したトリルのモチーフが終わる部分と全く同じ2つの和音を叩きつけるようにして終わります。


©️2016 Shun Oi

© 2018 by Shun Oi

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